- 「薬剤師としてキャリアアップしたい」
- 「結婚を考えているので待遇をもっと良くしたい」
- 「育児も考えてより働きやすい環境を求めたい」
転職を考える理由はさまざまですが、転職にはリスクがともなうため、「今の動機で決断してもいいのだろうか……」と不安に思う方もいるでしょう。
今回は、薬剤師専門のキャリアカウンセラー「ファーマリンク」ならではのアドバイスポイントも交えながら、現役薬剤師の方々がどんな理由で転職を決断しているのかをご紹介します。転職の際には避けられない、「退職面談や採用面接における離職理由の伝え方」についてもしっかり確認しておきましょう。
薬剤師は離職率が高い?離職率データ から見る実態
「新入社員の離職率」と同程度
少し古い資料にはなりますが、ネグジット総研が保険薬局の47社を対象に行った調査(2011年発表)によると、薬剤師の離職率は3年以内で32%、1年で9%でした。新卒(大学卒)入社の社会人で3年以内に離職する人の割合が約32.3%、1年以内の離職率が8.9%(ともに2012年)ということを考えれば、薬剤師の離職率は新卒社会人と同程度と言えるでしょう。「転職活動が活発」というイメージを持たれがちな薬剤師ですが、データを見る限り離職率が他の業種に比べてものすごく高いというわけではありません。
ただし、薬剤師とひとくくりに言っても、職種(管理薬剤師・パート薬剤師・勤務薬剤師)や薬局の規模・職場(調剤薬局・病院・ドラッグストア)はさまざまです。続いては、様々な観点から薬剤師の離職率を把握していきましょう。
職種・階層によって変わる離職率(1年の離職率)
管理薬剤師 | 9% |
---|---|
勤務薬剤師 | 8% |
パート薬剤師 | 21% |
全体 | 10% |
「パート薬剤師」は縛りが少なく、比較的自由に働けることもあって、年間で5人に1人程度の割合で離職・転職しています。
店舗規模による離職率(1年の離職率)
5店舗以下 | 6% |
---|---|
6~10店舗 | 14% |
11~20店舗 | 11% |
21~30店舗 | 8% |
31店舗以上 | 16% |
全体 | 10% |
11~30店舗では、会社が成長過程ということがあり、会社を作り上げることを楽しめるか、そうでないかがポイントになるでしょう。大手になってくると、諸制度は整備されていることが多く、一方で「異動の可能性が高くなる」ということがポイントです。
勤続3年以上の定着率は68%
定着率を図る1つの目安となる「3年以上の勤務年数のある薬剤師の割合」を店舗規模に分けてご紹介します。
5店舗以下 | 70% |
---|---|
6~10店舗 | 67% |
11~20店舗 | 73% |
21~30店舗 | 76% |
31店舗以上 | 58% |
全体 | 68% |
3年以内に離職する薬剤師の割合は、31店舗以上で42%(100%-58%=42%)ともっとも高く、大手チェーンの離職率が高いという前述の傾向と一致しています。
参考までに、大手チェーン薬局の勤続年数(2018年度)を見てみましょう。
日本調剤 | 約6.5年 |
---|---|
総合メディカル | 約7.0年 |
クオール | 約5.6年 |
上記3社の平均勤続年数は6.3年ですが、薬剤師の勤続平均年数は6.7年(厚生労働省:実労働時間数と月間給与額/2016年)です。住み慣れた土地で7年以上安定して長く働きたいのであれば、店舗数の少ない調剤薬局がよいかもしれません。
【病院・調剤薬局・ドラッグストア】別 薬剤師の離職率
病院薬局の離職率(1年以内) | 約20% |
---|---|
調剤薬局の離職率(1年以内) | 約10% |
ドラッグストア(薬剤師)の 離職率(3年以内) | 約6% |
職種ごとの離職率を見ると、「当直がある」「勤務時間が長い」「勉強会への参加義務がある」「看護師や医師との柔軟なコミュニケーションが必要」など、仕事の負担が大きい病院薬局に勤務する薬剤師の離職率がもっとも高いという結果に。調剤薬局で働く薬剤師の離職率は、薬剤師全体の離職率とほぼ同じ数値となっています。
圧倒的な年収の高さから、ドラッグストア勤務薬剤師の離職率(3年以内)は6%と低いですが、労働環境が悪く3年以内の離職率が約30%に及ぶドラッグストアも存在するので、一概に数値では測れない部分もあります。
「第二新卒」の薬剤師は転職できる?
第二新卒とは、「新卒入社したものの数年のうちに離職し、転職活動をしている若い求職者」のこと。一般的に、社会人経験3年未満の求職者を第二新卒とするケースが多いようです。薬剤師でも、第二新卒として転職を考える方が少なくありません。
結論からいうと、薬剤師業界において第二新卒の転職はさほど難しくないでしょう。むしろ企業によっては、「積極的に採用したい」というところもあるのです。企業が第二新卒を採用することには、次のようなメリットがあります。
- ・基本的なビジネススキルを備えているため教育コストを抑えられる
- ・経験は少ないものの社会には出ているため、仕事に対する理解がある
- ・新卒に比べて柔軟性や適応力がある
- ・長く社会経験を積んだ人に比べて転職先の会社になじむのが容易
- ・中小規模の薬局グループでは新卒人材の確保が比較的難しい
このように、第二新卒にはさまざまなアドバンテージがあります。これまで不安を感じて転職に踏み切れなかった方は、前向きに取り組んでみてはいかがでしょうか。
離職につながりやすい5つの不満
ここまで、役職・規模・職場別で見た薬剤師の離職率データをご紹介してきました。では、実際にどういった不満が転職につながっているのでしょうか?離職率の高い職場の特徴を5つにまとめました。
労働環境に関するよくある不満
- 〇22時まで働いて、翌朝は8時から出勤。今日もゆっくり休めない……。
- 〇24時間365日営業のドラッグストアで、土日出勤が多い。家族との時間が取れない。
- 〇薬歴を書くための休日出勤は当たり前。「休んでいい」と言われても状況的に連休は取れない。
- 〇当直のストレスがつらい。
人間関係に関するよくある不満
- 〇先輩や上司が理不尽に厳しく、教えてほしい点を教えてくれないのにミスを激しく叱責された。
- 〇周りから「○○さんがミスをしたみたいよ」と聞こえるように嫌味を言われた。
- 〇たいして仕事をしていないのに、指示を出すことだけは達者な先輩薬剤師がいる。
毎日のように同じメンバーと狭い空間で時間をともにするため、ささいなことが人間関係のトラブルに発展しがちです。ただでさえ人の命に係わる薬を扱うプレッシャーがある中で、さらに人間関係に不満を抱えるのは相当なストレスになるでしょう。
給与・待遇に関するよくある不満
- 〇休憩も取れないほど忙しいのに、年収はイマイチ……。
- 〇残業代がほとんど出ず、「タダ働き」を余儀なくされている。
- 〇上のポストが埋まっていて、いくら頑張っても年収アップや出世が見込めない。
2018年(平成30年)の薬剤師全体の平均年収は、544万円。地域・勤め先の規模・性別によって年収は異なり、病院薬剤師や調剤薬局勤めの場合は年収400万円程度とも言われています。仕事内容と給料が釣り合わない薬剤師の職場では、どうしても離職率が高くなりがちです。
異動・転勤に関するよくある不満
- 〇家族がいる(持ち家がある)ので、引っ越しを伴う転勤はしたくない。
- 〇これまで片道20分だったのに、異動先の店舗は片道1時間半以上かかる……。
中小規模の薬局であれば、勤務地が特定エリアに集中しているため、通勤時間は20~30分程度のケースが多いでしょう。これが大手となるとエリアが広くなるため、中には通勤に1時間半以上必要となる薬剤師も。「1時間半もあれば資格の勉強など、より有意義な時間に使えるのに」と不満を抱えてしまうこともあるでしょう。
キャリアアップに関するよくある不満
- ・研修制度などのバックアップがなく、かといって先輩や上司に何かを聞いてよい雰囲気でもない。
- ・いくら頑張っても管理薬剤師止まりで、昇給や昇格は見込めなさそう。
- ・キャリアパスが用意されておらず、将来像を具体的に描けない。
薬剤師としてのスキルアップ計画がない職場、キャリアパスがなくずっと働いていけるイメージがわかない職場では、将来への不安が募ってしまいます。
もしかしたらその問題、転職せずに解決できるかも?
薬剤師は他業界に比べると転職活動が活発な傾向にあるため、転職に対して過度に否定的なイメージを持つ必要はありません。ただし、「短期間に繰り返す転職」「やむを得ない理由以外での転職」については、薬剤師の業界でも厳しくチェックされます。「何となく嫌だから」といった理由で仕事を辞めてしまうと、なかなか就職先が決まらないなど不利な状況に置かれる可能性がるでしょう。
今抱えている問題も、もしかしたら転職せずに解決できるかもしれません。転職しなくても解決できるのか、転職しない限り解決は難しいのかをしっかり見極めましょう。
転職せずに解決できるかもしれないケース
残業時間への不満
仕事の習慣を変える、優先順位をつけてスケジューリングを行う、といった形で業務効率化を図るとともに、業務時間を定めて割り切って帰宅するなどしましょう。上司との関係が良好であれば、思い切って相談してみるのも手です。組織全体で無駄な作業や手順・仕組みの見直しに取り組むことで、改善できる可能性も高まるでしょう。
給与への不満
研修認定薬剤師や専門薬剤師といった資格を取り、スキルアップを図ることで他の薬剤師との差別化を図れるでしょう。自分にしかできないことが増えれば、年収もアップするかもしれません。
人間関係の悪さ
まずは、社外の人や別の勤務地で働く同僚に話を聞いてもらうのがいいかもしれません。同じような悩みを持っていた先輩に、解決してきた方法を伝授してもらえる可能性もあるでしょう。同じ職場の同僚に愚痴るのは、余計なトラブルに巻き込まれてしまう可能性があるため避けたいところ。上司に相談し、勤務先の変更を申し出てみるのも手です。
仕事内容の不満
上司にどんな業務内容・キャリアアップを希望するのかを話し、その仕事に近づくためにどんな努力をすればいいのか相談してみましょう。
転職が問題解決に有効なケース
周りに相談した結果、今あなたを悩ませる原因が個人の力では変えられない「社風」であるならば、現状の打破は難しいかもしれません。また、極度のストレスや過労から心身疲労・困憊している場合は、まずはあなた自身を守ることが優先です。社風や、心身の異常といったトラブルに関しては、無理をせずに職場を変えることがご自身のためになるでしょう。
転職活動対策1:退職面談での正しい伝え方
退職を決意した後のステップと言えば、「退職面談」です。「立つ鳥跡を濁さず」という言葉があるように、きれいな退職(円満退職)は余計なストレスを抱えないためにも重要なポイントになります。
問題は、「どうやって退職理由を話せばよいのか」ですよね。離職動機の伝え方には大きく「本音」と「建前」がありますが、基本的には「建前」で話を進めることをおすすめします。
本音の離職動機だと、引き止められる可能性が
上司と本音で今の不満(給与・残業など)を離職理由として話すと、条件の緩和(給与アップや残業改善など)が提示され、引き止められるケースがほとんどでしょう。条件交渉を取り付けたとしても、口だけの約束になってしまうことが少なくありません。残業を自分だけ見直してもらうのは、周りのメンバーに対してあまり気持ちのいいものではないですよね。
本音で離職動機を話すと相手に条件交渉の余地を与えてしまいます。優しい方や責任感の強い方だとなかなか離職を決断できず、モヤモヤする時間をすごすことにもなるでしょう。転職の意思が強いのであれば、次の方法で退職面談を円満に進めましょう。
「建前=嘘をつく」ではない
「そういう事情なら仕方ない」と納得してもらえるような「建前」の離職動機を伝えることで、強い引き止めもされず、職場環境を濁すことなく退職しやすくなります。
たとえば、「給与に不満がある」と言うのではなく、「他の職場で新たな経験を積み、スキルと知識の向上を目指したい」と伝えるのはどうでしょうか。また「残業の多さに不満がある」なら、「子供のクラブ活動があるので、家族のために土・日を休日として確保したい」「家族の介護が必要になるため退職したい」などと具体的に伝えれば納得してもらいやすくなります。
本音を完全に隠したり、本音と程遠い理由(嘘)を伝えたりする必要はありません。後ろ向きの本音を前向きな表現へと変えることで、「それは仕方ないですね。では退職に向けて動いていきましょう」と話が進みやすくなるのです。
転職活動対策2:採用面接での正しい伝え方
転職を決断したということは、多くの場合「前職に何らかの不満があった」と考えられます。そのため、採用担当の面接官は「この会社でまた同じような不満が出てきたら辞めてしまうのでは?」といった懸念から、なぜ転職したのか(背景・動機)を詳しく聞いてきます。
たとえマイナスな理由であったとしても、次のような転職に至った理由の伝え方を目指しましょう。そうすれば採用担当者は安心できますし、あなたにいい意味で興味を持ってくれるでしょう。
前向きな姿勢を伝えること
前職の悪口や、マイナスイメージを連想させる言葉は控えましょう。「年収が良くなかった」「人間関係で疲れてしまった」などは立派な動機ですが、そのまま伝えるのは望ましくありません。ポジティブに言葉の印象を変えて伝えましょう。
「残業ばかりで仕事量に見合った給料をもらえなかった」
→「年功序列の給与体系ということもあり、仕事の量や頑張りに対して自分の成長を実感しにくかった。今、より幅広い業務で力を発揮できるよう○○という資格取得に向けて勉強中をしている。将来を見据えて、成果によってしっかりと評価される環境で働きたい」
「人間関係に問題があった」
→「患者さんに安心して薬を服用してもらうためにも、裏方となる薬剤師の連携は欠かせない。チーム全体が同じ熱量で患者さんに対応することで、力を発揮し合える環境を作っていきたい。だからこそ、チームワークを大切にする社風の御社で、薬剤師全員が意思疎通をしながら働きたい」
熱意をアピールすること
どの企業もやる気や向上心のない人材を雇いたいとは思いません。仕事に打ち込む姿勢に熱心さがあり、会社に貢献してくれる人を雇いたいものです。重要なのは、「自分を雇うことでどんなプラスの影響を会社や周囲に与えられるのか」をアピールすることです。
- ・「がん薬物療法認定薬剤師・外来がん治療認定薬剤師の資格取得に向けて勉強中。癌治療の最前線と言われる○○病院で力を発揮していきたい」
- ・「患者様との会話を大切にし、地域になくてはならない頼れる薬剤師として貢献していきたい」
転職志望先ならではの特徴への共感を交えて熱意を伝えると、より面接官の印象に残りやすくなります。
薬剤師の転職は珍しいものではない
働きやすい環境やキャリアアップを目指すために転職を2~3回する薬剤師は多くいます。40代にもなると「4~5回目」と言う方もいます。雇用する企業からすれば、「長くいてほしい」と引き止められるケースもありますが、人生の決定権はあなたのもの。不満を誰かのせいにせず、よりよい環境を求めるためにも、転職は決して後ろめたい選択肢ではないのです。
とはいえ、同じような理由で転職を繰り返すのはよくありません。もしあなたが現在の職場で人間関係・キャリア・待遇などに不満を抱えているのであれば、まずは自力で解決できるかどうかを考えてみましょう。「どうしても環境を変えられない」「このままでは自分が潰れてしまう」という時は、迷わずに転職を決断しましょう。薬剤師の求人に特化したキャリアカウンセラー「ファーマリンク」が、あなたのキャリアアップや待遇改善をお手伝いいたします。