2024年、調剤薬局およびドラッグストア業界は、国内の医療環境や消費者のニーズの変化により、大きな転換期を迎えています。特にコロナ禍からの回復が進む中、調剤薬局やドラッグストアは、業績をさらに伸ばし、積極的なM&Aや新規出店で市場シェアを拡大している状況です。本記事では、2024年版の大手調剤薬局およびドラッグストアの売上高ランキングを紹介し、その特徴や今後の展望について詳しく解説します。

【2024年】調剤薬局売上高ランキング

はじめに2024年の調剤薬局売上ランキングをみていきましょう。こちらは各企業の決算情報や公式サイトで公開されている数値をもとにした売上高上位の企業です。売上高トップ10の売上高データとともに、1位〜3位の企業の特徴を紹介します。

順位企業名売上高(百万円)注釈
1株式会社アインホールディングス357,571※2024年4月期
※ファーマシー事業
2日本調剤株式会社302,805※2024年3月期
3クオールホールディングス株式会社165,099※2024年3月期
※保険薬局事業
4株式会社メディカルシステムネットワーク109,904※2024年3期
※地域薬局ネットワーク事業
5株式会社スズケン(ユニスマイル)97,463※2024年3月期
※地域医療介護支援事業
6東邦ホールディングス株式会社(ファーマみらい)93,789※2024年3月期
※調剤薬局事業
7株式会社アイセイ薬局80,200※2023年度
8ファーマライズホールディングス株式会社54,466※2024年5月期
9株式会社トーカイ52,287※2024年3月期
※調剤サービス
10シップスヘルスケアホールディングス株式会社32,719※調剤薬局事業
※2024年第3月期

1位:株式会社アインホールディングス

アインホールディングスは、2024年も売上高で業界第1位を維持しています。その背景には、積極的なM&A戦略と新規店舗開業による拡大が大きな要因です。2022年にファーマシィホールディングスをグループに迎えたほか、2023年には西日本ファーマシーの調剤部門を承継しています。その結果、2023年7月末時点で2023年度4月期の1,209店舗より26店舗増え、1,235店舗となりました。

店舗増に伴い薬剤師の人数も増えているほか、新卒薬剤師も532人採用しています。「アイン薬局を地域のインフラにリーディングカンパニーとして業界を牽引していく」と掲げている通り、全国に店舗があり、今後も積極的に拡大していくことが想像できます。

2位:日本調剤株式会社

日本調剤株式会社は、売上高は業界第2位でした。主に関東に薬局を多く展開し、大学病院・総合病院を中心とした門前薬局が多いことが特徴です。そのため、一枚あたりの処方箋単価が17,175円と高く、アインホールディングの1,231店舗(2024年4月期時点)に対して、744店舗(2024年9月1日時点)ながら売上高の差は少なくなっています。

また、グループ内に日本ジェネリックがあること、ジェネリック使用率89.3%と平均よりもかなり高いのも特徴の1つといえるでしょう。ほかにも、薬剤師による残薬調節額を公表していることから医療費削減に積極的に貢献する方針をとっていることがうかがえます。最近では、ドローン・地上配送ロボット連携による個宅配送実証実験に協力するなど、今後の展開に向けた活動もおこなっています。

参考:厚生労働省「保険者別の後発医薬品の使用割合(令和5年9月診療分)を公表します」

3位:クオールホールディングス株式会社

クオールホールディングス株式会社は、異業種との積極的なコラボレーションを進めています。ローソンやビックカメラ、JR駅構内など、利便性の高い立地に店舗を展開することで、独自の店舗展開をおこなっています。

そのような中でも、地域に根ざした医療提供を重視する方針は崩していません。各店舗では地域医療機関との連携を強化し、患者にとって有益な医療サービスを提供する体制を整えています。

また、従来の調剤事業に加えてヘルスケアやウェルネス事業への参入も進めています。薬の研究から製造・販売、患者に渡るまで切れ目のないサービスを提供するヘルスケア分野の事業を拡大中です。さらに、サントリーウエルネスと協業により、薬剤師の地域の患者さんへの健康サポート機能の充実を図っています。

売上高は全体的に増収傾向にある

2024年の調剤薬局業界全体として、売上高は増収傾向をみせています。コロナ禍からの回復が進み、患者の受診がコロナ渦以前に戻ったことが大きな理由の1つです。特に、処方箋の受付枚数が増加していることが、業界全体の売上増加に大きく影響しています。

また、各企業は調剤業務に加えて、化粧品やサプリメント、介護用品などの物販事業を強化しています。これにより、収益の多角化が図られたことが、安定した業績を維持する要因の1つになっているでしょう。

さらに、M&Aによる規模の拡大も売上増加につながっています。多くの企業が、地方の中小薬局を買収し全国的なネットワークを拡充することで、さらなる成長を目指しています。今後の調剤薬局業界は、増収基調を維持しつつ、業界全体でのシェア争いが今後も続くでしょう。

【2024年】調剤薬局店舗数ランキング

次に調剤薬局数ランキングは以下の通りです。

順位企業名店舗数注釈
1株式会社アインホールディングス1,235※2024年7月末時点
2クオールホールディングス株式会社953※2024年9月2日時点
3日本調剤株式会社744※2024年9月1日時点
4総合メディカル株式会社736※2024年8月1日時点
5東邦ホールディングス株式会社706※2024年3月31日時点
6株式会社スズケン577※2023年3月31日時点
7株式会社メディカルシステムネットワーク455※2024年8月31日時点
8株式会社アイセイ薬局410※2024年9月1日時点
※グループ連結
9ファーマライズホールディングス株式会社399※2024年6月1日時点
※連結子会社ベース
10株式会社トーカイ154※2024年3月末時点

売上高トップのアインホールディングスが1,235店舗で1位でした。クオールホールディングスが953店舗、日本調剤が743店舗と続いています。売上高ランキングと同様、店舗数でもこれらの企業が市場をリードしている状況です。

その中でも、2位のクオールホールディングスがローソンやビックカメラ、駅構内に店舗を積極的に展開する戦略で、店舗数を伸ばしています。2018年度以降、毎年15店舗以上の新規開局をしています。2022年9月より2年間でも、M&Aを含めて100店舗以上増となりました。

【2024年】ドラッグストア売上ランキング

2024年のドラッグストア業界では、ウエルシアホールディングスが前年からの売上増加を続け、首位を獲得しました。続くツルハホールディングス、マツキヨココカラ&カンパニーも堅調な成長をみせています。以下に、ドラッグストア事業をメイン事業とする企業の売上ランキングを紹介します。

順位企業名売上高(百万円)注釈
1ウエルシアホールディングス株式会社1,217,339※2024年2月期
※うち調剤売上高256,889(百万円)
2株式会社ツルハホールディングス1,027,462※2024年5月期
3株式会社マツキヨココカラ&カンパニー1,022,531※2024年3月期
4株式会社コスモス薬品964,989※2024年5月期
※うち医薬品売上高125,851(百万円)
5株式会社サンドラッグ751,777※2024年3月期
6スギホールディングス株式会社744,477※2024年2月期
7株式会社クスリのアオキホールディングス436,875※2024年5月期
8株式会社クリエイトSDホールディングス422,330※2024年5月期
※うちドラッグストア事業は417,915(百万円)
9株式会社富士薬品386,200※2024年3月末時点
10株式会社カワチ薬品285,960※2024年
※うち医薬品売上高52,262(百万円)

1位:ウエルシアホールディングス株式会社

ウエルシアホールディングス株式会社は、2024年もドラッグストア売上高ランキングで首位でした。これで5年連続1位となり、業界での地位も盤石となっています。売上高も、前年比106.4%と堅調です。OTC医薬品やサプリメント、化粧品の売上を順調に伸ばしているほか、プライベートブランドにも力を入れ、売上に貢献しています。

また、調剤事業を積極的に強化しており、調剤併設率は78.0%となっています。それに伴い、2024年の調剤売上高は前年比112.6%と顕著な成長をみせました。「地域No.1の健康ステーションに向けて」の考えのもと、デジタル化の推進により多様なニーズに対応できるよう推進しているため、今後も成長が見込まれるでしょう。

参考:ウエルシアホールディングス「決算説明会資料」

2位:株式会社ツルハホールディングス

株式会社ツルハホールディングスは第2位にランクインし、堅調な成長を続けています。北海道に盤石の基盤を持つ企業で、全国に店舗を広げており、昨年も64店舗の店舗増をしています。特に地方都市において強いシェアを持っているのが特徴です。

しかしながら、調剤をおこなえる店舗が35.2%(調剤併設店舗:27.7%、調剤専門店舗:7.53%)とウエルシアに比べて低いのが課題です。このため、調剤併設店舗の拡大を積極的に進めており、2024年5月期の1年間で調剤併設店舗を73店舗増やしました。今後も調剤事業の積極的な拡大が続くとみられます。

参考:株式会社ツルハホールディングス「2024年5月期決算説明会資料」
株式会社ツルハホールディングス「2023年5月期決算説明会資料」

3位:株式会社マツキヨココカラ&カンパニー

株式会社マツキヨココカラ&カンパニーは、前年比107.5%と堅調な売上でした。昨年は前年比130%でしたが、これはコロナ禍が終わったインバウンドの回復によるためで、伸びは鈍化しましたが、それでも堅調に伸びていると言えるでしょう。

国内に圧倒的な店舗数を持つ同社ですが、売上の推移でもわかるように、特に都市部や駅前などの利便性の高いエリアに多くの店舗を展開しています。化粧品や生活用品、食料品などのプライベートブランドの展開や、オンラインストアと連携したオムニチャネル戦略により安定した売上をあげています。

参考:株式会社マツキヨココカラ&カンパニー「2024年3月期決算説明資料」

【2024年】ドラッグストア国内店舗数ランキング

次にドラッグストアの国内店舗数ランキングは以下の通りです。

順位企業名店舗数注釈
1株式会社マツキヨココカラ&カンパニー3,484※2024年6月30日時点
2ウエルシアホールディングス株式会社2,820※2024年5月30日時点
3株式会社ツルハホールディングス2,643※2024年8月15日時点
4スギホールディングス株式会社1,764※2024年7月末時点
5株式会社コスモス薬品1,518※2024年8月31日時点
6株式会社サンドラッグ1,085※2024年6月末時点
7株式会社富士薬品1,271※2024年3月末時点
8株式会社クスリのアオキホールディングス939※2024年8月20日時点
9株式会社クリエイトSDホールディングス752※2024年5月末時点
10株式会社カワチ薬品376※2024年6月末時点

ドラッグストア業界は全体的に好調を維持しています。食品を販売する、調剤薬局併設店舗を拡大する、新規店舗を開店するなど、積極的な戦略を取っている会社が多く、店舗数も増えています。それが売上にも反映されているのでしょう。

これからの薬剤師に求められるものとは

調剤薬局を展開する企業は介護関連事業や在宅医療にも積極的に参入しており、これに伴って薬剤師に求められるスキルも多様化しています。在宅患者に対応するため、従来の業務に加えて訪問診療や在宅ケアに関する専門知識が必要不可欠です。また、薬剤師は在宅医療チームの一員として、医師や看護師と連携しながら、患者の生活全体をサポートする役割を担うことが求められるでしょう。

ドラッグストア業界での薬剤師に求められる役割も変わっています。調剤併設店舗の増加に伴い、調剤薬局薬剤師としての業務スキルも必要になります。さらに、健康相談やサプリメントの提案、さらには生活習慣病の予防に関するアドバイスなど、顧客の健康を総合的に支援する立場が求められるでしょう。そのため、薬剤師には薬学知識に加え、コミュニケーションスキルや観察力、サポート力が必要となります。これにより、患者一人ひとりのニーズに寄り添い、より質の高い医療サービスの提供が可能となるでしょう。

調剤薬局ランキングを参考に薬剤師の将来性を考えよう

2024年の調剤薬局およびドラッグストアの売上高と店舗数のランキングをみてきました。これらのデータは薬剤師の将来性を考える上で非常に重要な指標となります。業界の在り方が変わりつつある中で、それらにチャレンジし業績を拡大している企業を中心に薬剤師の需要も高まりつつあり、これからのキャリアパスの選択の幅が広がる傾向にあるでしょう。

しかし、調剤業務の効率化やIT技術の導入、在宅医療への対応が進む中で、薬剤師には新しいスキルが求められています。また、調剤薬局やドラッグストアの多角化が進む中で、薬剤師としての専門性を高めるだけでなく、広範な知識とコミュニケーション能力も重要となっています。求められるスキルを習得することで、薬剤師は医療・健康の領域でますます重要な役割を果たせるでしょう。