2024年10月から「長期収載品の選定療養費」が新たに導入されました。本制度は、医療現場での薬剤選択に大きな影響を与えることが想定されます。特に薬剤師は、患者に適切な医薬品を提供するために、制度の詳細を理解しておく必要があるでしょう。
本記事では、選定療養費の基本的な仕組みや計算方法について詳しく解説します。
そもそも「選定療養費」とは
選定療養費とは、健康保険被保険者の選択によって発生した料金のことです。選定療養を受けたときには、療養全体にかかる費用のうち基礎的部分については保険が適用され、特別料金部分については全額自己負担となります。
具体的には、入院時の差額ベッド代や予約診療、大病院の初診料などが選定療養費の対象です。選定療養費の導入により、患者は医療の選択肢を広げ、自分に合った治療を受けられるようになります。
2024年10月開始「長期収載品の選定療養」の概要
2024年10月から、新たに「長期収載品の選定療養」が開始となりました。本制度の開始により、対象薬剤を選ぶと特別料金を支払う必要があるため、患者から制度の内容について質問されるケースも少なくないでしょう。患者からの質問に正しく回答できるように、制度の概要について理解しておきましょう。
ここからは、長期収載品の選定療養が導入された背景とともに、詳細な対象品目や除外条件について、解説していきます。
長期収載品の選定療養導入の背景
長期収載品に対する選定療養の導入は、保険財政の負担軽減が主な目的です。長期収載品とは、同じ成分の後発医薬品(ジェネリック医薬品)のある先発医薬品のこと。後発医薬品(ジェネ リック薬)の普及を促進し医療費を抑制するために、長期収載品を選択した場合には健康保険適用後の自己負担額に加え、特別料金も支払う必要があります。
後発医薬品の選択を促進し、結果的に医療保険財政の改善を図る制度であり、医療機関や薬局の収入が増えるわけではありません。ただし、後発医薬品の使用割合が増え、加算の算定につながることで、医療機関や薬局の利益が増える可能性もあります。
先発医薬品の処方には「特別料金」が必要
長期収載品の選定療養では、患者が先発医薬品を希望する場合には「特別料金」が必要になることがあります。特別料金とは、先発医薬品と後発医薬品の価格差の4分の1に相当する金額を指します。
ただし、すべての先発医薬品が対象となるのではなく、長期収載品に該当する、同じ成分の後発医薬品がある先発医薬品が対象です。
選定療養費の対象医薬品
選定療養費の対象医薬品は、後発医薬品が存在する長期収載品目の先発医薬品です。具体的には、以下の3つの要件を満たす必要があります。
- 後発医薬品のある先発医薬品(いわゆる「準先発品」を含む。)であること(バイオ医薬品を除く)。
- 後発医薬品が収載された年数及び後発品置換え率の観点から、組成及び剤形区分が同一であって、次のいずれかに該当する品目であること。
・後発医薬品が初めて薬価基準に収載されてから5年を経過した品目(後発品置き換え率が1%未満のものは除く。)
・後発医薬品が初めて薬価基準に収載されてから5年を経過しない品目のうち、後発品置換え率が 50%以上のもの - 長期収載品の薬価が、後発医薬品のうち最も薬価が高いものの薬価を超えていること。この薬価の比較にあたっては、組成、規格及び剤形ごとに判断するものであること。
引用:厚生労働省「長期収載品の処方等又は調剤に係る選定療養の対象医薬品について」
対象となる医薬品のリストは、厚生労働省のウェブサイトから確認できます。定期的に本リストは更新されるため、こまめにチェックしてミスのないようにしておくとよいでしょう。
選定療養の対象から除外されるケース
被保険者が選定療養費の対象となる先発医薬品を選ぶ場合、必ずしも特別料金が発生するわけではありません。以下のようなケースでは、選定療養から除外され、特別料金を支払わずに先発医薬品を使用できます。
- 医療上の必要性があるケース
- 後発医薬品を提供することが困難なケース
処方箋や在庫状況によって適用可否が変わるため、対象外となる条件についてしっかりと理解を深めておくことが大切です。
医療上の必要性があるケース
先発医薬品の使用が「医療上の必要性がある」と認められた場合には、選定療養費の対象から除外されることがあります。
具体的には、後発医薬品を選ぶことで効果や効能が異なるために先発医薬品を選ばなくてはいけない場合があげられます。また、後発医薬品では効果が十分に得られなかったり、副作用や他の医薬品との相互作用が生じたりするケースにおいて、医者が先発医薬品を指定した場合には選定療養は適用されません。その他にも、学会が作成するガイドラインにおいて後発医薬品を使用せず、先発医薬品の使用が推奨されるケースなどがあげられます。
また、後発医薬品が患者が服用しにくい剤形だったときも、医師などが先発医薬品の必要性を認めた場合は医療上の理由として考慮されます。
後発医薬品を提供することが困難なケース
医療機関や薬局が後発医薬品の提供できないケースにも、選定療養費は適用されません。
近年、出荷停止や出荷調整といった医薬品の供給不足が問題となっており、後発医薬品の在庫を十分に確保できないケースも少なくありません。医薬品の供給問題が原因となっている場合も含め、医療機関や薬局に後発医薬品の在庫がなく、やむを得ず先発医薬品を使用する場合には、選定療養の対象外となります。
参照:厚生労働省「後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について」
参照:厚生労働省「長期収載品の処方等又は調剤に係る選定療養の対象医薬品について」
選定療養費の計算方法
長期収載品の選定療養が開始されるにあたり、選定療養費の計算方法は多くの薬剤師が知っておくべき重要なポイントです。先述した通り、先発医薬品と後発医薬品の価格差の4分の1に相当する金額が特別料金にあたります。
たとえば、先発医薬品の薬価が100円、後発医薬品の薬価が60円の場合、差額40円の4分の1である10円が特別料金です。また、残りの4分の3についてはこれまで通り保険が適用されるため、保険の負担割合によって1割〜3割の自己負担が発生することになります。
出典:厚生労働省「後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について」
ただし、特別料金を計算するときは、以下の点に注意しなければなりません。
- 選定療養費は消費税の課税対象となる
- 薬価から選定療養費を控除した額が保険適用の総額になる
- 計算途中で薬価を診療報酬点数に変換するため、薬価の端数処理が行われる
- 後発医薬品が複数存在する場合、薬価が一番高い後発医薬品との薬価差で計算する
参照:厚生労働省「後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について」
選定療養費導入に伴う処方箋の見直し
2024年10月から開始される選定療養費の導入に伴い、処方箋の様式が見直されます。
これまでの処方箋に記載されていた「変更不可」の欄には「医療上必要」という文言が追加されました。医者によって後発医薬品への変更ができないと判断された場合に使用され、記入が入っている医薬品については、選定療養費は適用されません。
また、処方箋に「患者希望」という新しい欄が追加され、患者が特定の薬剤を希望する際の意思表示が可能になります。ただし、「患者希望」の欄に記入が入っていたとしても、選定療養の対象外とはならないため注意が必要です。
さらに、処方の説明書きは以下の内容へと変更されました。
個々の処方薬について、医療上の必要性があるため、後発医薬品(ジェネリック医薬品)への変更に差し支えがあると判断した場合には、「変更不可」欄に「レ」又は「×」を記載し、「保険医署 名」欄に署名又は記名・押印すること。
また、患者の希望を踏まえ、先発医薬品を処方した場合には、「患者希望」欄に「レ」又は「×」を記載すること。
引用:東和薬品行政ニュース「10月より開始 長期収載品の選定療養について」
選定療養と特定薬剤管理指導加算3の関係性
特定薬剤管理指導加算3は、保険薬剤師が重点的な説明・指導の実施が必要と判断した患者に対して、適切な説明と指導を行った場合に算定できます。
また本加算は、選定療養に関して説明したときにも算定可能です。患者が選定療養の対象となる先発医薬品を希望する場合に選定療養について説明すると、当該医薬品を初めて処方された 1度のみ特別薬剤管理指導加算3を算定できます。なお、説明を行った後で患者が後発医薬品を選択したケースであっても、本加算の算定対象です。
選定療養費導入に伴い病院・薬局に求められる対応とは
選定療養費の導入に伴って、病院や薬局では以下の対応が求められます。
- 調剤時の説明と患者の希望の確認
- 保険外併用療養費の⼀部負担に係る徴収額と、特別の料金に相当する自費負担に係る徴収額を明確に区分した領収書の交付
- 本制度の趣旨や特別料金に関する掲示
- ウェブサイトへの掲載(ホームページ等を有しない場合は対象ではない
本制度の趣旨や特別料金について、院内の見やすい場所やウェブサイト上に掲示して周知するとともに、患者に対して十分な説明を行い、後発医薬品の使用を促す必要があります。
また、本制度の開始により、後発医薬品の使用量が増加し、供給不足になることが予想されます。あらかじめ十分な在庫を確保しておくのはもちろん、供給不足になったときの対応方法を決めておくことが大切です。
「長期収載品の選定療養」への理解を深め適切な対応を
2024年10月から導入された「長期収載品の選定療養費」は、医薬品選択において患者が先発 医薬品を希望する場合に発生する特別料金を指します。本料金の目的は、後発医薬品の使用を促進し、保険財政を軽減することにあります。
特別料金は、先発医薬品と後発医薬品の価格差の4分の1に相当する金額です。医療上の必要性があるケースや後発医薬品を提供することが困難なケースでは、本制度の対象から除外されます。医療機関や薬局は、本制度の趣旨や特別料金について掲示するとともに、患者への適切な説明が求められます。
長期収載品の選定療養に関する理解を深めて、適切に患者対応をしましょう。