今の職場の給与に満足できず、転職を考えている方も多いのではないでしょうか?仕事で挙げた成果や働きに見合った給与をもらえていないと、仕事へのモチベーションも下がってしまうことでしょう。

この記事では、薬剤師の給与実態や転職理由、転職を成功させるためのポイントをご紹介します。また給与への不満を理由に転職したいときの、面接における転職理由の伝え方を解説します。

給与が不満で転職? 薬剤師の給与の実態

病院や薬局で勤務する薬剤師の中には、給与に不満を抱えている方は少なくありません。

厚生労働省が作成した「薬剤師の偏在への対応策」では、給与に不満を抱く薬剤師の割合や病院と薬局の給与の違いが公表されています。

本資料をもとに、実際に給与へ不満を抱えている薬剤師はどのくらいいるのかをご紹介するとともに、病院と薬局間における薬剤師の給与格差について解説します。

給与の低さを転職理由にする薬剤師の割合は全体の約3割

厚生労働省の資料である「薬剤師の偏在への対応策」によると、「就職初年度の年収が想像と違っていたことを理由に転職を考えている」という薬剤師の割合は、病院薬剤師が全体の38.3%、薬局薬剤師34.1%でした。

また昇給ペースが想像と違っていたことを理由にすると、その割合は40%台に上ります。
本調査は対象となる病院・薬局を無作為に抽出し、そこに勤務するすべての薬剤師を対象としています。

このことから、3割を超える薬剤師が給与の低さや昇給ペースの遅さに、不満を抱いていると言えるでしょう。

病院と薬局間の給与格差

同調査によると、65歳まで勤務すると想定した場合、病院薬剤師(23,280万円)と薬局薬剤師(22,768万円)の生涯年収の差額は512万円であり、大きな差はありませんでした。

一方で昇給ペースには違いが見られます。病院薬剤師は20代の時点では平均年収が低いものの、昇給ペースが速い傾向にあります。反対に、薬局薬剤師は20代の時点で病院薬剤師よりも平均年収は高いですが、昇給ペースが遅く、生涯年収にすると病院薬剤師に劣るのが特徴です。

薬局の収益構造として、受けつける処方せん枚数が増えるほど利益が上がりやすく、その利益が昇給の原資です。しかし処方せんの多くを門前の病院やクリニックから受けつけている薬局では、処方元の医療機関の患者数が増えないと薬局の利益が増えにくい構造となっています。そのため薬局での昇給を目指すなら、門前医療機関以外からの処方せんを獲得する努力や、調剤報酬にある各種加算の積極的な算定が必要となるでしょう。

また大手の薬局に比べると、地場の小規模薬局の方が本部経費などのコストが少なく済むため、給与は高く設定されやすい傾向にあります。そういった特徴から、小規模薬局ほど転職時には高めの年収を提示されるケースは多いですが、昇給はあまり望めないかもしれません。

参考:厚生労働省「薬剤師の偏在への対応策」

給与だけではない薬剤師の転職理由

薬剤師が転職を考える理由は、給与面だけではありません。実際には、人間関係や仕事内容への不満などさまざまな理由があって、転職活動を始めるケースが多いと推察されます。

転職先を選ぶときに給与面だけを重視してしまうと、それ以外の条件に満足できず、希望に添った転職にならない可能性も。転職を成功させるためには、転職によって何を実現したいのか明確にしておくことが大切です。

ここからは、給与以外に薬剤師が転職を考える理由をいくつかご紹介します。

職場の人間関係がうまくいかない

薬剤師が転職を考えるきっかけになりやすいのが、人間関係の問題です。職場のスタッフとコミュニケーションがうまく取れず、居心地が悪い職場だと、転職を考えてしまうこともあるでしょう。

とくに勤務先が薬局の場合は、限られた空間で同じスタッフと毎日過ごすことになるため、どうしても人間関係の距離が近くなりがちです。上司や先輩が威圧的な態度で接してくることや、プライベートまで踏み込むような態度に悩まされても、同じ職場で働いている以上、距離を取ることは難しいでしょう。

また病院勤務の場合、医師や看護師など他職種との関わり合いが多く、複雑な人間関係に頭を悩ませるケースが考えられます。業務上、他職種との関わり合いを避けることは難しく、医師や看護師などに配慮しつつ勤務することにストレスを感じる方もいるでしょう。

労働環境に不満がある

残業で拘束時間が長かったり、休日や夜間対応が多かったりと、労働環境に不満を抱えている場合もあるでしょう。労働環境の良し悪しは仕事のやりがいにも大きく影響するため、より働きやすい環境を探して転職を考える薬剤師もいます。

厚生労働省が作成した「患者のための薬局ビジョン」において、かかりつけ薬剤師・薬局が持つべき機能として、「24時間対応・在宅対応」が挙げられており、薬局薬剤師には、開局時間内で行う調剤業務以外にもさまざまな業務への対応が求められています。そのため、勤務先の就業規則が整備されていないと、労働環境が悪くなりがちです。

また病院勤務では、夜勤勤務を求められることもあり、睡眠が十分に取れなかったり、生活リズムが不規則になったりする場合もあります。心身ともにストレスがかかりやすく、薬剤師が不満を抱えやすい状況と言えるでしょう。

参考:厚生労働省「患者のための薬局ビジョン」

スキルアップ・キャリアアップしたい

1つの病院や薬局で勤務していると、対応する業務内容にあまり変化が見られないため、スキルアップしている実感がわかず、転職を考える薬剤師もいます。

スキルアップをするためには、自身で勉強して自己研鑽を積むことが大切です。加えて、幅広い分野の処方せんに実際触れてみたり、興味のある分野に特化した病院や薬局で勤務したりすることで、さらなるスキルアップ・キャリアアップへとつながるでしょう。

とくに近年では、薬局に高度薬学管理機能が求められており、がんや糖尿病など特定の分野に特化した専門薬剤師の育成に力を入れる薬局も増えてきています。研修費用の補助が出たり、病院・薬局内での勉強会を盛んに行っていたりする職場に転職することで、スキルアップ・キャリアアップしやすくなるでしょう。

ライフスタイルの変化

転居や家族の介護、結婚、出産などのライフスタイルの変化によって転職せざるを得ないこともあるでしょう。ライフスタイルの変化は、とくに女性薬剤師が影響を受けやすい転職理由の1つです。

転居先からの通勤が難しかったり、出産・育児や家族の介護のためにフルタイムでの仕事ができなくなったりして、これまでの職場での勤務が困難になるケースなどが挙げられます。それぞれのライフスタイルによって、転職先に希望する条件が大きく異なるため、どの条件を優先したいのか転職先を決める前に明確にしておくことが大切です。

「転職理由は給与への不満」面接時に不利にならない伝え方

転職理由が給与への不満の場合、どのように転職理由を伝えるべきか迷うこともあるでしょう。転職先との面接では、転職理由について聞かれるケースがほとんどです。伝え方を間違ってしまうと、先方に悪い印象を与えてしまう可能性があります。

転職理由を伝えるときは、できるだけポジティブな表現に言い換えることを心がけましょう。
たとえば、給与に不満がある場合には下記のような伝え方をしてみてはいかがでしょうか。

  • 今の職場は年功序列で、仕事の頑張りに対して自身の成長を実感しにくかった。成果をしっかり挙げて意欲高く働くために、御社のような評価基準が明確な環境で働きたい
  • 薬剤師としてのスキルアップをしたいと考えており、教育制度や評価体系など人材育成に積極的に取り組まれている御社で活躍したい

決して転職理由を作り上げようとしたり、今の職場の不満な点を過度に強調したりせずに、ポジティブな理由を伝えることで、面接官に好印象を持ってもらいやすくなるでしょう。

薬剤師の転職を成功させるためのポイント

転職を成功させるためにはいくつかのポイントがあります。とくに転職活動が初めての場合、何に気をつけて転職活動をすればよいか分からず不安に感じることもあるでしょう。

今の職場で抱いている給与への不満ばかりを重視して転職活動をしていると、思わぬ落とし穴があるかもしれません。

ここからは薬剤師が転職を成功させるために具体的に何をすればよいかを解説します。

希望条件に優先順位をつける

今の職場に対して給与への不満がある場合、転職においても給与を重視しがちです。しかし給与以外にも、残業や休日・夜間対応の有無などの労働環境や勤務地、スキルアップを目指せる教育体系など、自身の希望する条件がないか考えておく必要があるでしょう。希望条件に優先順位をつけておくことで、転職先選びに何を重視したいかが明確になり、転職後のミスマッチを防げます。

業務内容や雇用条件をしっかりとチェックする

転職後にギャップを感じないように、転職先の業務内容や雇用条件をしっかりチェックしておくことも大切です。

「想定していた業務内容と違った」「思っていたより給与が低い」といった不満を抱くことのないよう、現場の業務内容や1日の処方せん枚数、在宅医療の有無、雇用形態などしっかりと確認しておきましょう。

また大手でも数店舗を束ねる管理職に登用されると、一気に昇給が見込めます。場合によっては地場の小規模薬局の年収を超えることもあるため、将来的に管理職を視野に入れている方ならば、将来のキャリアアップや昇給を踏まえて転職先を検討することが大切です。

参考:厚生労働省「薬剤師の偏在への対応策」

職場見学をする

求人票を見て業務内容や雇用形態など条件の合う職場を見つけたら、時間が許す限り職場見学に参加しましょう。転職活動中の薬剤師に職場の雰囲気を掴んでもらうために、職場見学を行っているところは多く見られます。一緒に働く上司や同僚の人柄や職場の設備などを知れるため、実際に入職後の働き方のイメージがわきやすくなるでしょう。

また薬剤師が服薬指導を行っている姿を見学したり、薬歴の記載内容を見たりできれば、その薬局に求められている仕事のレベルを知れるでしょう。
業務内容に合った調剤機器を導入し、調剤補助員と適切に業務分担を行うなど、薬剤師の業務をサポートする体制が整備されていることも働きやすさに大きく影響します。

さらに業務中以外の職場環境をチェックすることも大切です。昼食や休息を取るための休憩室の有無を確認し、落ち着いて休憩時間が過ごせる環境かチェックしておきましょう。

転職のタイミングを計る

薬剤師の募集は、冬のボーナス支給後の1月から3月に増える傾向にあります。転職を急がないのであれば、求人数が多いこの時期に転職活動をした方が好条件の職場を見つけやすいでしょう。

また転職時期ごとの特徴を以下にまとめました。転職活動を始める時期を決める参考にしてください。

  • 繁忙期(1~3月):繁忙期を乗り切るための派遣急募の依頼が多く、派遣での就業や、4月以降の入社に向けて早めに転職先を決めたい人が動く時期。ボーナス支給後で採用も多くなる。
  • 繁忙期後(4~6月):新卒の入社で案件が少なくなる時期(この時期の転職を考えるなら3月までに転職先を決めることがオススメ)
  • 閑散期(7~8月):ボーナス後の退職組が多いが、調剤薬局が閑散期のため案件が少ない時期。転職活動をしている人が少ないため、落ち着いて転職先を決められる。
  • 繁忙期前(9~12月):7月のボーナス後退職の補充や、繁忙期に向けて人員確保の時期。新たな案件が出やすい時期で、競争率も高くなりがち。

転職を成功させ給与への不満を解消しよう

薬剤師の中で給与への不満を理由に転職を考える人は、3割を超えるとも言われています。もらっている給与だけではなく、昇給ペースを考慮するとさらに不満を抱く人は多くなります。
転職を成功させるためには、希望条件に優先順位をつけ、転職先の業務内容や雇用形態をしっかりと確認することが大切です。

また転職後にギャップを感じないためにも、職場の雰囲気や労働環境を確認するために、職場見学に参加しましょう。転職時期の特徴を知り適切なタイミングで転職活動を行えば、好条件の職場を見つけやすくなるかもしれません。

面接のときには、転職理由をできるだけポジティブな表現で伝えるようにして、面接官に好印象を与えられるように工夫しましょう。